腰痛の原因についてはさまざま捉え方がありますが、当院では腰痛を4つの要素がそれぞれの割合で混在したものと考えて診療しています。いわば”痛みの四重奏”です。
1つは背骨の中を通る神経が軟骨や骨に圧迫されて起こす痛み(神経障害)です。典型的なものに、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきしゅうかんきょうさくしょう)があります。2つ目は慢性疼痛(慢性腰下肢痛)で、日本人の7割以上が体験する腰痛症です。
姿勢や生活環境から腰部の捻挫など原因は多様です。3つ目は背骨の変形である脊柱変性(側弯症、後弯症、円背:首垂れ、腰曲がり)です。4つ目は病理学的疾患で、脊椎転移性腫瘍や感染症(カリエスなど)など見落としてはならない病気です。
これらの4つの要素はお互いに関連しあっているため、どの要素が痛みの発生源を刺激している中心的な存在かを診断して対処することが、腰痛の有効な治療法となります。
腰痛の中でも、腰部脊柱管狭窄症はわかりやすい疾患です。安静にしていればそれほど症状はありませんが、間欠跛行(かんけつはこう)という特徴的な症状が見られます。間欠跛行とは、少し歩くと足がしびれ痛みが出て歩けなくなり、少し休息すれば歩けるようになるのですが、また歩けなくなってしまいます。また、腰部脊柱管狭窄症では背伸びができず、逆に前かがみの姿勢や腰掛けると楽になります。
腰には、背骨、椎間板、関節、靭帯などで構成されている脊柱管があります。加齢により、椎間板が膨らんだり、靭帯が厚くなって、脊柱管自体が狭くなり、中と通っている神経が圧迫を受け、神経の血流が低下すると腰部脊柱管狭窄症が発症します。
症状が軽いうちはリハビリテーション、コルセット、神経ブロックや脊髄の神経周囲の血行を良くするプロスタグランジンE1製剤の内服で症状の改善が期待できます。
歩行障害が進んで日常生活に支障が出てくると、手術を考えなければならなくなってきます。腰部の脊髄神経の圧迫を取り除き、脊柱管が狭まった状態を開放し、蓋耽美狭くならないように固定する方法をとります(腰椎除圧固定手術)。最近では、高齢者の方も家族と一緒に旅行がしたいなどの希望でこの手術を受ける患者さんも目立ちます。当院では、80歳半ばで手術を受けた方もいます。
腰痛の原因には、椎間板の老化もあります。数多くの手術経験から、椎間板の老化の早さを痛感しています。椎間板の寿命は他の臓器に比べて短く、そのため腰部椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などを起こす原因となっていると考えられます。
患者さんには椎間板をクルマのタイヤにたとえて話していますが、「いつかは壊れるもの」なのです。このような腰痛について、よく知っておくことが大切です。腰痛があれば、「我慢せずに整形外科を受診」することから足腰の”修理”が始まるとお考えになっていただきたいと思います。
