腰部脊柱管狭窄症

高齢社会に入ってとくに多くなってきた病気で、変形性脊椎症と同様に高齢男性に多くみられ、おじいさんの病気と思ってよいでしょう。

脊柱管が腫瘍以外の原因で構造的に狭くなり、脊柱管内の馬尾や神経根を圧迫して症状をおこすものを脊柱管狭窄症と呼んでいます。この病気は腰部に多く発症し、生まれつきのものは少ないものです。頸椎の部分の病変では30~40歳代に多発し、 一度発症すると症状が急速に進行します。下肢の痙性、歩行障害、上肢のしびれ感などがおきます。ここではもっとも多い腰部について述べます。

原因

脊柱管を構造的に狭くする病気には、変形性脊椎症、分離すべり症、偽性すべり症、椎間板ヘルニアなどがあります。脊柱管が先天的に狭いところに、これらの病気が重なると、脊柱管を一層狭くして症状がおこりやすくなります。これらの病気でおきた骨棘形成、椎間関節の肥大、椎間板の膨隆、黄色靱帯肥厚などが、脊柱管を前後、左右方向から狭くして、馬尾や神経根を圧迫して症状をおこします 。狭窄は、多くは第四、第5腰椎の部位に強くおこります。

症状

動作時に痛み、安静により軽快する腰痛がつづきます。この腰痛が主症状ですが、脊柱管が左右から狭窄される外側型の狭窄症では、下肢のしびれ感や痛みなど坐骨神経痛症状がみられ、前後から狭窄される中心型の狭窄症では、神経性間欠跛行がみられます。また、しばしば坐骨神経痛症状と神経性間欠跛行との混合型もみられます。神経性間欠跛行は、この狭窄症のもっとも特徴的な症状の1つです。こ れは、一定の距離を歩くと、下肢の痛み、しびれ感、脱力感などが生じて、歩けなくなる症状です。この距離は100メートルのこともあれば、1キロのこともあって、さまざまですが、一般に病状が進んでいるものほど、この距離は短くなります。

この症状は、上半身を前方に折り曲げてしゃがみこんだり、椅子などに座ったりして 数分間休息すると軽くなり、また歩けるようになります。しかし、しばらくするとまた歩けなくなるのです。それが間欠跛行といわれるゆえんです。この間欠跛行は、腰部脊 柱管狭窄症の患者の80~90パーセントが訴える症状です。

診断

脊柱管狭窄症は、変形性脊椎症、分離すべり症などと合併することが多いため、これらの病気に神経性間欠跛行が加われば、診断が下されます。

しかし、この間欠跛行は、閉塞性動脈硬化症による血管性の間欠跛行との区別が必要です。血管性間欠跛行では、どんな姿勢でも歩行を休めばしびれや痛みなどの症状がとれますが、腰部脊柱管狭窄症の馬尾神経性間欠跛行では、上半身を前方に折り曲げて数分間しゃがみこんだ姿勢で休まないと症状がとれません。

また、神経性間欠跛行では足背動脈の拍動は正常で、血液の流れは障害されていません。脊髄造影やCT検査、MRI検査で、狭窄症の部位や程度が明らかになります。

治療

変形性脊椎症の治療法とほとんど同じです。しかし、この病気の治療でとくに大切なことは、肥満をさけ、腰椎前弯を除去する姿勢を保つことです。神経性間欠跛行が上半身を前方に折り曲げた姿勢で軽くなるということは、逆に肥満してお腹を突き出した姿勢は、この症状を出やすくするということです。この腰椎前弯を強くした姿勢は、馬尾をたわめ、神経組織の血流を障害するからです。そのために腰椎前弯を矯正するための装具を装着することは効果的です。

この姿勢の注意に加えて、鎮痛消炎薬や血液の流れをよくする薬などの使用や、 入院、安静臥床しての神経ブロック、硬膜外ブロックも症状を軽快させます。このような保存療法でどうしても効果がみられず、排尿障害、肛門周囲の灼熱感などが強くなれば、脊柱管を広げる手術が必要です。手術で、神経症状を完全にとり除くことはむずかしいのですが、かなり症状の改善がみられるものです。