大腿骨頭壊死・大腿骨頭無腐性壊死

なんらかの原因で、大腿骨の骨頭への血流が遮断されると、その骨端部の骨が壊死(骨の組織が部分的に死ぬ)におちいる疾患です 。その結果、 体重の負担が集中する部位の骨は陥凹し、関節の表面が変形して、関節面がうまくかみ合わず、二次的に変形性関節症へと進行してしまいます。大腿骨頭壊死は、壊死を生じる原因の明瞭なものと、原因の不明瞭なものとがあります。原因の明瞭なものは、症候性大腿骨頭壊死、原因の不明瞭なものは特発性大腿骨頭壊死と呼ばれています。症候性大腿骨頭壊死は、大腿骨頚部骨折後に発生する骨頭壊死が代表的なものです。これは、骨折による骨端部への血行の遮断が大腿骨頭壊死の発生と密接に関係しています。

また、潜函病、潜水病など高圧環境のもとで作業を続けていても骨壊死は発生しますが、この場合は大腿骨頭に限らず、上腕骨の骨頭などにも発生し多発性の骨壊死を招くことが知られています。この原因は、高圧環境からの急激な浮上による減圧で、血液中に気化された窒素ガスが細小動脈を閉塞してしまうことが主因なのです。特発性大腿骨頭壊死は、1960年代から注目されるようになり、近年増加の傾向にあります。そして現状では、原因の解明、治療法の確立もなされておらず、また青年期から中年期の働き盛りの年齢層に多く発症するところから注目を浴びている疾患です。

原因

この病気は原因不明瞭とはいえ、発症の背景には、副腎皮質ステロイド薬の使用や、アルコールの多飲などが知られています。その他、この病気の病因に関しては、外傷説、血液凝固系の異常説、静脈系の異常説、脂肪塞栓説、脂質代謝異常説など多くの説もあります。

症状

初発症状は、股関節痛であることが多いのですが、大腿部痛、膝の痛み、坐骨神経痛として発症することがあります。痛みは徐々に生ずることもありますが、急激に発病して歩行不能となり、その後一 時軽快する傾向もあります。多くは次第に股関節の運動範囲が制限され、歩行痛、跛行(足をひきずって不自然に歩くこと)がひどくなり、日常生活動作が制限されてきます。

診断

確定診断はエックス線検査で行なわれますが、この検査は、大腿骨頭壊死の診断と病期分類にはもっとも重要な検査です。MRI(磁気共鳴映像法)撮影も、この病気の早期診断に非常に有効なものです。

治療

治療方法は、エックス線やMRIの検査による骨頭壊死の進行の程度によって異なります。ごく早期で壊死の範囲が小さく、痛みや運動の制限の少ない場合には、 そのわるい関節に体重がかからないようにして経過をみることもあります。しかし、この方法だけでは完治することはまれで、治療法の決定は、局所病変の進行程度によって、次のような手術療法が行なわれています。

(1)病巣掻爬骨移植術…壊死部を掻爬し、そこに腸骨または脛骨より採取した海綿骨を充填して、その上に脛骨皮質骨釘を適当な長さで挿入する方法です。この方法 は、ごく早期で、壊死の範囲が小さく、変形のほとんどないものに適応があります。

(2)内反骨切り術…骨頭の外側部が壊死をまぬかれていれば、この手術法の適応があります。

(3)大腿骨頭前方回転骨切り術…壊死の範囲は広いが、比較的前方に位置しているものには、壊死した骨頭を前方に回転させて、後方の良好な関節面に関節荷重部を移動させる方法です。

以上(2)、(3)は、いずれの方法も、早期に診断して骨頭壊死部を荷重域から逃して、 比較的健常部で荷重させることを意図した手術方法です。

(4)人工骨頭置換術…壊死の範囲が広く、骨頭の変化が著明でも、臼蓋の変化が少なければ、人工骨頭の置換が行なわれます。

(5)人工関節置換術…骨頭の破壊がひどく、また、臼蓋の変形性関節症の変化も強い場合には、人工関節の置換が適応となります。